インタビュー Vol.97
 

俳優と声楽家の二刀流で表現する実力派

上原理生

 

 
 

小さい頃から歌がお好きだったのですか

歌うことは好きでしたね。ロックンローラになりたくて、小さい頃から「歌手になる」って自分の中では確信めいたものがありました。1990年代はロックバンドが沢山出てきていたので、小学校4年生頃はL’Arc~en~Cielさんとか、KISSにのめり込んで夢中で聞いていました。
 

ミュージカル俳優になろうと志したきっかけは

大学に入ってからですね。クラシックを学んでいて、学生団体でミュージカルカンパニーを作ってみんなでやろうってなりまして、僕も誘われて、その時はミュージカル『Les Misérables』をやることになったのですが、オペラの舞台芸術の流れを汲んで発展していったようで、曲調はクラシックなものもあればロックなものもありますし、僕自身はロックの要素もあって「融合点」に感じて。ミュージカルは日本語で歌うじゃないですか。クラシックはヨーロッパの言語で歌うのでお客様の反応が全然違うことも感じましたよね。ヨーロッパの言語で歌っても知っている曲なら何となく分かっても、そうでない曲は何を言っているのか意味が伝わり難いですし、その曲に入り込み難いですよね。
僕自身、大学院に進もうか、でも日本人なのに、これから先もヨーロッパの言語で歌い続けるのか、進路に悩んでいた時に東宝主催のご本家の『Les Misérables』のオーディションがあることを聞いて受けてみたのですよね。それで合格して現在に至るという感じですね。何だかミュージカルの道に進むように導かれているかのように思いました。
 

 

東京藝術大学はストレートに合格されて凄いですね!

根拠のない自信はありましたね。受からないかも?と心配していたら勝てないから、やるからには合格したいし、何もわからないことだらけの中、知らないことの強さみたいなものもありましたね。受かるための勉強しかしていなかったので、入ってみたらそれはもう、環境が一変しましたね。周りの友達は、小さい頃からそういう教育を受けてきた子とか、高校の声楽コンクールで1位になった子とか、素地があるのですよねあのオペラのあのシーンいいよね~とか友達同士で話していたり、初めて見る譜面を歌詞付きで歌えたりするんですよ。そんな友達を見ていて、僕は何もわからないことだらけの劣等生でしたね。じゃここで1位とったらどうだ!とそこから僕自身も頑張って勉強しましたね。
 

同期で今ミュージカル界として一緒にご活躍されているかたはいらしゃいますか

同期ではいませんが、先輩では田万里生さんや宮原浩暢さん(LE VELVETS)がいらっしゃいます。
 

今年でデビュー何年になられますか

12年経ちましたが、気がついたらこの年齢になっていたという感じですね。
デビューしたのは24歳で今36歳になり、僕には兄と弟がいますが甥っ子、姪っ子が生まれて、名実ともにおじちゃんです(笑)
 

 

今までの出演作品についてはいかがですか

作品にも恵まれていたのかなって思いますね。僕は元々、歌から入ってきたので、共演する俳優さんにも演技のことなど、色々と教えていただくことが多くて、本当に有り難いことに、可愛がっていただきました。
 

作品にはその都度、オーディションがあるのでしょうか

いえ、作品にもよりますが、オーデションではなく、この役はどうですか?とお声がけいただくこともありますね。
 

お声がけいただく中で、お断りすることもあるのでしょうか

ん~ この12年はなかったですね。いただく役は有り難く演じさせていただきましたが、最近はありましたね、この役は僕にはちょっと違うかな~っていうのがありまして、それはお断りしましたが...
 

上原さんといえばフランス人の革命家の役が多かったですが、その役を引きずることはなかったでしょうか

それはないですね、一つ一つの作品を完結させて、自分の中で終わらせています。
 

2011~2017年 ミュージカル『Les Misérables』
アンジョルラス役
 
2016・2018年 ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』
ダントン役
 
2017年 ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』
ロベスピエール役/ プリンス・オブ・ウェールズ役

 

ターニングポイントとして俳優さんと作品の中からひとつだけあったとしたら

市村正親さんですね。2012年から僕は自身3作目の『ミス・サイゴン』と現在上演中のミュージカル『生きる』でもご一緒させて頂いています。そうそうたる俳優さんの中で演技をすることの緊張で何も分らない中、市村さんからはいつも愛あるお叱りを受け、指導してくださり、いつも市村さんのお芝居をされている姿勢を間近にみながら学ばせていただき、偉大な人に教えて頂いたという気持ちは貴重な体験ですね。
実はミス・サイゴンではそんなにガッツリと絡むシーンはなかったのですが、今回の『生きる』ではしっかりと対峙して向き合うシーンが多くて、自分がどれだけ市村さんの相手が務まるのだろうという気持ちもあったのですが、稽古中の居酒屋のシーンで僕が市村さんに「ここのシーンはこうした方が良いでしょうか?」とお聞きしたら、「いや~まだ稽古が始まったばかりだし、大丈夫だよ~」と言ってくださり、「俺が長い年月かけてお前を仕込んだから大丈夫だよ!」って小さい声でボソっと言ってくださって、もう嬉しくて、市村さんをハグしちゃいましたよ(笑)
 

ミュージカル『ミス・サイゴン』は、2022年に日本初演から30周年を迎えた

 

鹿賀丈史さんは共演されてみていかがでしたか

スターですね。一挙手一投足に華がある方です。舞台袖では柔和な笑顔ですが、『生きる』の舞台ではその演じる表情が、映画の渡辺勘治役の志村喬さんにソックリなんですね。
 

2023年 ミュージカル『生きる』

 

今36歳であと20年で56歳そのまた20年後でやっと76歳。上原さんは渡辺勘治役をどう思いますか

演じてみたいですね。この年齢の主人公はなかなかないので、この役には夢がありますね。作品も黒澤明監督の映画を全く邪魔していないと感じました。日本人の侘び寂びを凄く表している作品ではないかと思いました。
 

 

役作りの基本として上原さんが心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか

時代背景や人物像として、失礼があってはいけないので、史実に基づいたものに関してはやはり調べますね。最近、役作りはそういった下地ができた上での感情を見つけていく作業なんだなと感じ始めました。
 

 

先日もゲーテの詩劇『ファウスト』を読まれたとか

黒澤版の『生きる』の脚本に小説家の紹介として「メフェストフェレスのような男」という記述がありましたので、それで早速、読みましたね。
 

小説家役ではWキャストの平方元基さんとも役作りに関して、話し合われたりされたのですか

はい、しましたね。初共演が12年前のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のティボルト役以来だったのですが、台本を読みながら「ここはさ~どんな感情で話せばいいのかな~」「この台詞の感情はどうなんだろう…」みたいな話をしていて、僕ら12年前はこんな会話はなかったよねって二人で、俺たち大人になったねって、笑っていました。
元ちゃんとは、一緒に戦う戦友みたいな人ですね。自分が感じたものと元ちゃんが感じたことが同じだと、あ!自分は間違っていないんだと安心しちゃいますね(笑)
 

 

楽曲も「生きる」の演出に大きな意味をもたらしてくれたように感じました

これは宮本亜門さんが話してくれたことですが、黒澤明監督も大事にされていた言葉があって、それはチャールズ・チャップリンの「人生とは近くで見ると悲劇だが、遠くで見ると喜劇だ」という言葉で、定年間近の男が胃がんを宣告されて死に向かっていくストーリーの要所要所に、実はコメディ要素があるんですね。あとは楽曲も明るかったりと、バランスをとっているのですね。
 

声楽家としても大活躍ですがオペラとオペレッタの違いを教えてください

オペラは全編が歌なんですが台詞に該当するところは「レチタティーヴォ」と言って音符が付いていて、オペレッタはミュージカルの前身みたいなもので、お芝居Partもあり、そこから歌に入っていくみたいな感じで主にドイツ語で歌う作品が多いですね。オペラはイタリア語、フランス語、ドイツ語などですね。モーツァルトの魔笛とか、「ジングシュピール」というのが土台になっていて「ジング」は歌う、「シュピール」は話していくという意味で歌って話していくという劇が進化してオペレッタになったという形でしょうか。オペレッタは喜劇が多いですが、日本語で上演されたりしています。オペラアリアは僕も歌います。
 

私も6月24日に八ヶ岳高原音楽堂のリサイタルに伺いましたが、オペラ歌手としての上原さんを鑑賞して、高貴な場所に居させてもらえたような気分になりました。ステージ上からお客様のお顔は見えるものですか。歌ったときの感想は?

見えますが、気が散るのでなるべく見ないようにしています(笑)
気持ち良く歌えましたし、響きが良い素晴らしい会場でしたね。僕自身、元々オペラからスタートしてきたので、自分の中では戻る感覚になりました。
 

八ヶ岳高原音楽堂

 

来年(2024年)1月には日本初演のミュージカル『イザボー』上演。望海風斗さん演じる王妃イザボーを愛する夫のシャルル6世という役ですね

まだ内容までは良く分らないのですが、今までの革命を起こす平民の役から、イザボーではついにフランス王になりました。元宝塚スターさんのトップさんの夫役が増えましたね(笑)
 

〈今後の上原理生さん出演作品〉
ミュージカル『 イザボー』
シャルル6世役で出演決定!
2024年1月15〜1月30日 東京建物Brillia HALL

 

ミュージカル『スウィーニー・トッド
ターピン役で出演決定!
2024年3月9日~3月30日 東京建物Brillia HALL

 

将来の夢は

歌うことが本当に楽しくなってきました、お芝居も好きですがやはり歌うことがいちばん好きなので、元々僕はバリトンだったのが、最近テノールになってきたのです。俳優として学んだものを歌に昇華していきたいですね。昭和歌謡も好きなので、歌い継いでいきたいですね。歌というのはその国の文化を表すと何かの本で読んだのですが、フランスはシャンソン、イタリアはカンツォーネ、日本は歌謡曲なんですね。美しいロマンが詰まっているのですよね。最近は尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」が好きで良く歌っています(笑)
 

 

上原さんは東京公演のみのご出演ですが、ドリーム・キャラバンへの意気込みをお願いします

僕もフルオーケストラをバックに歌うことがとても楽しみですし、ミュージカルをご覧になったことがない方でも、帰ったら思わず口ずさんだりしちゃうような楽しいコンサートになると思いますので、ぜひ会場でお待ちしております。

 

上原理生さんの舞台を初めて鑑賞させていただいたのはミュージカル『Les Misérables』で初舞台はアンジョルラス役でした(2019年からはジャベール役)。あれから12年、今最も輝いている実力派ミュージカル俳優であることは長年ご出演されている王道の人気作品を見てもわかる通り、運を引き寄せる魅力とミュージカルの神様にも愛されているようなエナジーを強く感じます。
数年前になりますが、とあるリハーサルで誰もいないスタジオにいちばん早く入られ、その片隅で発声練習をされていて、実力に甘えることなく常に努力を惜しまないその真摯な姿勢に感銘しました。
上原さんに歌っていただきたい楽曲は数えきれないほどあるのですが、ロイド=ウェバーやフランク・ワイルドホーン、M.クンツェ&S.リーヴァイなどなど、いつか上原さんのワンマン・ライブがあったらリクエスト曲だけのコンサートをお願いしたいと贅沢な妄想を描いてしまいそうです...

さて、今回のドリーム・キャラバンでは交響楽団とJAZZビックバンドの総勢70名編成による混成スペシャル・オーケストラの演奏にのせて、東京公演初日を皮切りに6箇所で開催いたしますが、上原さんをはじめ多くの共演者はどんな夢のギフトをくださるのか、皆さまとご一緒にこの一期一会の感動を分かち合えることを心から願っております。 

 
インタビュアー:佐藤美枝子
撮影:NORI
ヘアメイク:丸山晃穂(JYUNESU)
取材協力:ZEAL STUDIOS
許可なく転載・引用することを堅くお断りします。

上原 理生

東京藝術大学声楽科卒業。卒業時に同声会賞・アカンサス音楽賞受賞。2011年『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役でミュージカルデビュー。
主な出演作に『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『1789-バスティーユの恋人たち-』『ピアフ』『マリー・アントワネット』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『-War Paint-』『生きる』など。また、声楽家としての一面も持ち、オペラ・クラシック、ミュージカル、昭和歌謡、映画音楽など幅広いレパートリーを歌いこなす"歌のジャンルを越えた架け橋"として八ヶ岳高原音楽堂やBillboardなどにてコンサートやライブ、リサイタルを開催。その存在感、表現力、歌唱力を高く評価されている。


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 ※本公演は各種感染予防対策を講じたうえで実施いたします。今後、政府・自治体・会場の方針によっては、対応を変更させていただく場合もございます。最新情報は当ホームページにてご確認くださいますようお願いいたします。