インタビュー Vol.93
〜ご縁が繋いだ10年間〜 奇跡のミュージカル俳優
平方元基
この10年間を振り返ってみていかがでしたか
先の10年を見てみるとすごく長く感じますが、この10年間で沢山の出会いがあり、ご縁が続いているひともいれば離れてしまうひともいて、10年はあっという間ですね。デビューする前を思い起こせば、当時は生活に困っていた時期だったこともあり、生きるための手段として気がついたらこの道に入っていたという感じでしょうか。勿論お金を稼ぐということだけではなく、人とのご縁からキッカケを貰ってこの仕事を選んで、いま自分がこの世界に居続けていることがとても不思議な感じがします。実は僕自身、人に見られることは苦手で全然積極的な性格ではないんです。
傍から見るとすごく恵まれていると思いますが
そうですね、僕自身もそう思います。俳優を目指して、この世界に入りたいひとは大勢いると思いますし、僕自身この事務所にいて、あまり普段は言わないですが、スタッフにサポートされながら良い環境で仕事をやらせて貰えていて有難いと思っています。それに無い物ねだりしていたらキリがないですからね(笑)。
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(2011年9月赤坂ACTシアター)のティボルト役でデビューされて、再演はベンヴォーリオ役に挑まれましたが、初舞台のことは覚えていますか
幕が開いたときの景色は鮮明に覚えていますね。緊張もしていましたが今みたいに舞台に立つことの怖さや細かいことはまだ自分のなかで理解できていなかったので、怖いもの知らずでした。そして、ロミジュリは宝塚歌劇団では既に上演されていましたが、外部で、しかも男女版での上演は初めてだったので、僕自身、まだその頃ミュージカルのことをよく分からなくて良かったと思いますね(笑)。色んなプレッシャーを抱えていたらきっと怖くて演じることができなかったかもしれません。
後輩のロミジュリは観に行かれますか
Wキャストなので全員は観れていないのですが、大体観に行けていますね。僕らの演出とも全然違うので、まるで新しいもの観ているような感じがしますね。
最近の俳優さんで気になるひとはいますか
spiさんが気になりますね。spiさんとはシアタークリエの10周年記念コンサート『TENTH』で共演したことはありますが、この作品ではspiさんは言葉を発しない役だったんです。だからあまりお互いに話すこともなくて。spiさんは風貌からして強く見えるけど、繊細で舞台のことを凄く考えていて、才能もある俳優さんだと思うので気軽に話しかけたら、打ち負かされてしまうんじゃないかと(笑)。前はちょっと近寄り難い存在だったけど、いまはspiさんと連絡を取りたいんです。
ご自身はどんな性格ですか
デビュー当時は、先輩にも平気で意見を言ったりして、しきたりみたいのが分からなくて、いま思うと恥ずかしいです(笑)。10年経って、僕にも後輩ができたわけだけど、後輩の中には、稽古中に分からないことがあれば素直に「分かりません」と言える子も多くて。遠慮しない発言力も大事だと思います。そういう意味では昔と今の感性の融合、みたいな良い現象が起きているなと思っています。僕自身はセッカチで何でも早く行動に移すタイプなので、一緒にいて今の若い子たちから学ぶこともたくさんありますね。それとは別に祖母の影響もあるかもしれません。凄くお洒落で格好良くて、煙草吹かしてパチンコやるような(笑)ファンキーで明るいおばあちゃんが大好きですし、おばあちゃんに勇気をもらったり刺激を受けることも沢山あって。今日身に付けているこの腕時計もおばあちゃんの形見なんです。
先日のファンクラブ・イベントでのファンへの優しさが素晴らしいと思いました
僕のファンクラブではファン同士が親しくなったり、僕以上に僕のことをすごく理解してくれているんです。だからファンの皆さんには何でもしてあげたいといつも思っていますよ。本当にいつも応援してくれているファンの皆さんには感謝しかないです。
2016年、2017年、2019年とワンマン・コンサートをされてきてやる度に目指すことは
自分自身の歩いてきた道のりを振り返って、一回一回、自分に、ある意味でのケリを付けたいという気持ちがあるように思っています。
今回初のミュージカルアルバムを『PROOF』プルーフ(証拠)と付けた意味と選曲については
10年間ミュージカルの世界で演じてきた僕自身の軌跡と、真ん中ばかりではない、僕ならではだと思える、そして、皆さまにも思っていただけるような歌を中心に選んでみました。
特に思い出深い楽曲は
最初の『ロミオ&ジュリエット』より〈本当の俺じゃない〉と最後の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』より〈Our Time〉の2曲ですね。収録前、〈Our Time〉は少し長いかなと思っていたのですが、全部聞いたあとのエピローグともいえる楽曲になっていて、すごく良かったと思っています。そして、今まであったことは皆さんと共有できているけど、これからこのライブの先の未来のことは誰も分からない。その一歩を踏み出す瞬間に、いま、ここにいた、ということが凄く素敵なことになるようにしたいなと思いますね。
「楽曲紹介」も平方さんが書かれたそうですが
いま思ったことをすぐに書かないと自分でも忘れてしまうので、すぐに書きましたね。夢と同じです(笑)。面白い夢をみて、目覚めたら書き留めておきたいことがあっても起きたころには忘れてしまっていることが多い。そんな感じで「楽曲紹介」も一気にスラスラと書きました。
演出家の鈴木裕美さんとの対談の中で「もう辞めたいと悩んだ時期が5回くらいあった」のは本当ですか
鈴木裕美さんが以前おっしゃっていた言葉で、「一度、割と重めで難易度の高いストレートプレイをやってみて、それからまたミュージカルをやると更に良くなると思う、できれば演出もさせてもらいたい」と。ストレートはやってみたいと思いますか
5月1日からシアタークリエで上演する『THE 39 STEPS』は音楽やダンスもありますが、ストレートプレイ的な部分もある作品なので今回も挑戦ですね。でも昔だったらこの役は絶対に出来ないし、来るべき時に来るべき役が舞い込んでくるようになっているのですよね、きっと。
10年間のターニングポイントは
いまこの時です。10年を分岐点にリスタートするという気持ちです。本音を言うと、何で僕が俳優をやらせてもらっているのか実はまだよく理解できていないかもしれません。僕は生きるために仕事をしなければというスタートだったし、俳優になるという目標を小さい頃から持ってこの世界に飛び込んだわけではないから、僕がいま選ばれている意味がまだちゃんと理解できていない部分もあります。本当に僕でいいの??っていう。よく言えば謙虚そうに聞こえるかもしれませんが裏を返せば自信の無さかも...これが正直な今の気持ちですね。
平方元基“単独初主演”『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』2010年に石丸幹二さん主演で初めて上演された作品ですが、平方さん主演の意気込みは
僕自身、あまり主役の意識はないんです。今までも主役をやりたいと思ったこともあまりないんです。こんなこと言うと周囲のひとから誤解されるかもしれませんが「そんな大役、僕には無理!」という気持ちが強いんです。4人の大人が演じる作品で、ハイパーコメディ抱腹絶倒となっていますが、決してお笑いではなくて、サスペンスです。舞台から一度もハケないので、演じる者にとってもコワい作品ですね(笑)。3役のヒロインを演じるソニンさんと、ガッツリお芝居するのも初めてなので、いまは稽古の真っ最中ですが毎日奮闘しています!
サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督 「三十九夜」(1935年)の2作品を元に舞台化(HPより抜粋)
今回ゲストの柿澤勇人さんはミュージカル『サンセット大通り』(2015年7月赤坂ACTシアター)のWキャストでもあり(2020年8月 日生劇場)『ザ・ミュージカルBOX ~Welcome to my home~』でもご一緒でしたが、どんな存在でしょうか。
普段から仲良しで一緒に御飯も食べに行くし、飲みにも行くし、お芝居の深い話までできる親しい友達でもありますね。そして僕が尊敬するカッキーは自分から壁にブチ当たってボコボコになっていくタイプ(笑)。僕にはないものを持っているし、近いようで遠い存在で、人としても俳優としてとても魅力的なひとです。
ミュージカル『サンセット大通り』の時はお互いに観にいったりされたのですか
それが演出家の鈴木裕美さんから「観ない方がいい、役が寄ってしまうかもしれないから…」って言われて、僕はカッキーのジョー・ギリスは観ていないんですよ。カッキーは僕のジョーを観ていますけどね。
もうお一方のゲスト、美弥るりかさんとの共演は『SHOW-ism IX マトリョーシカ』(2020年7月 シアタークリエ)でしょうか。
そうですね。美弥ちゃんの宝塚退団後初の作品でした。そのほかにも美弥ちゃんのコンサートのゲストにも呼んでいただきました。ある時、悩んでいたことがあって、ふと自分をもっと大切にしたいと考えるようになったんです。そんなことを美弥ちゃんと話していたら、僕と細胞?考え方?感じ方?が似ていると思いましたね。とても気が合うし、色々と相談にのってもらったりと、凄く頼り甲斐のあるひとです。昔から知っているひとみたいな感じがしますね(笑)
今後挑戦してみたいことは
仕事の話ではなくてゴメンナサイなのですが、ひとつのところにずっと留まれない性格だから、世界一周をしたいです!でもまだまだやらなければいけないことも沢山あるので、それは何だろう?と模索している途中ですね。これからも色んな景色を見たいですしね。
ミュージカルとはどんな存在ですか
その時に出逢う作品の役ひとつひとつが自分の人生を終える時に思う僕自身の自己紹介?なのかなって思います。でも一つ確実に言えるのは、僕はミュージカルをやっていなければここまで健康ではいられなかったと思いますね(笑)
10年後の目標は
いまの世の中、何が起こるか分からないので、20周年があるといいなとだけ思いますね。これからも楽しみながら目標を持っていけたらいいなと思います。
最後にファンの皆さまにひとこと
この1回を全力で挑みますので見届けてくれたら嬉しいです。僕自身も皆さんと一緒にこの日の風景を心に刻みたいと思います。ぜひ会場でお会いしましょう!!
平方さんとの出会いは2015年『いまも輝く昭和のスタンダードソングス』でJ-popを歌っていただいたのが最初でした。今も鮮明に覚えています、2015年11月ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇後、帝劇の楽屋で平方さんに「ワンマン・コンサートやってみませんかー」と。平方さん「やりたいです!!」と即答で答えてくださり、そしてその翌年の2016年11月に初の「ミュージカル・デビュー5周年記念」コンサートを開催。2017年、2019年と続きました。特に2019年は本番のない月がなく、よくハードな一年間を突き抜けたものよと、平方さんのメンタルの底力を思い知らされた一年でした。
幼いころからこの世界に入りたくて目指してきた俳優とは異なり、福岡でスカウトされたのがキッカケだそうですが、ゼロからのスタートで、どれ程の努力をしてきたことか、2016年の時にうかがった座右の銘が「しなやかに、したたかに」でした。将来への確約もない芸能の世界で覚悟を持って挑みつ続けた10年間の節目の年に、記念アルバム『PROOF』を引っ提げて歌うこの瞬間の平方さんを見届けたいと思います。
まず、単独初主演『THE 39 STEPS(ザ・サーティー・ナイン・ステップス)』ではどんなリチャード・ハネイを演じてくださるのか楽しみです。
2022年はミュージカル主演とコンサートのW祝いですね!心からおめでとうございます。
インタビュアー:佐藤美枝子
カメラマン:真島 隆
スタイリスト:五十嵐堂寿
ヘアメイク:丸山晃穂(JYUNESU)
平方 元基
1985年福岡県生まれ。上京後、2008年ドラマデビュー。2011年に『ロミオ&ジュリエット』(小池修一郎演出)でティボルト役に大抜擢、ミュージカルデビューを果たす。
その後『エリザベート』『レディ・ベス』(共に小池修一郎演出)『マイ・フェア・レディ』(G2演出)『サンセット大通り』(鈴木裕美演出)『ダンス
オブ ヴァンパイア』『ローマの休日』(共に山田和也演出)『王家の紋章』(荻田浩一演出)『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(高橋正徳演出)『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(マリア・フリードマン演出)『マドモアゼル・モーツァルト』(小林香演出)等の大作や話題作に次々と出演し、活躍の場を拡げている。5月には単独初となる主演作「THE 39 STEPS」がシアタークリエにて上演予定。趣味は旅行。
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