インタビュー Vol.87
 

まなざしひとつで演技する魅力的な俳優

渡辺大輔

 

 

 

渡辺さんは競泳でオリンピック出場を目指していたそうですが

父は学生時代から陸上選手で、母も運動が大好きで、僕がまだ小学生の頃、土日になると、家族全員でソフトバレーに参加して1ヶ月に一度くらいのペースで試合にも出るほど、家族みんなスポーツが大好きでしたね。あとは剣道もやっていましたし、小学校1年生くらいから始めた水泳がいちばんのめり込みましたね。剣道と水泳の練習時間がかぶってしまい、どちらかに絞らなければならなくなったのですが、そこで「水泳でオリンピックに出たい!」ということを自分の夢にして、競泳選手を目指して本気で頑張っていました。
 

種目はなんですか

クロールと背泳ぎと個人メドレーです。水泳は0コンマ1秒の世界で闘っていて、指先の1ミリのタッチの差で勝負が決まる世界ですよね。タイムが伸びないことに悩んで、ひとつの大会が終わってその標準記録を超えるとまた更に次の記録を出さなくてならず、自分を追い込んでいくことが長く続いて悩んで苦しい時期があって、父に相談したら「中途半端でやるな!!」と凄く怒られましたね。一応、全国大会まではいけたのですが、オリンピック強化選手まではいけなかったのが悔しかったですね。
水泳は中学生まで頑張って、高校時代はサッカーに夢中になりました。
 

  

スポーツで経験されたことは現在の俳優人生において、役立っているのではないでしょうか

そうですね、陸上競技にも似ていると思うのですが、リレー以外はほぼ個人競技なので、水泳を通じてメンタル面が鍛えられたんだと思います。
人に対してもそうなのですが、自分自身に対しても僕は負けず嫌いなので、それはいまでも変わっていないですね。何か新しいことにチャレンジする時にそれが出来ない!ということが嫌なので、自分でハードルをどんどん上げていって挑戦することが自分に課せられた使命のような気持ちでいつも前向きに色んなことに挑戦しています。
 

 

今回のLOVE SONG COVERSにご出演してくださるお気持ちは

いまコロナの時期に公演を開催することは本当に大変なことだと思います。この時期にお客様が会場まで足を運んでくださり、僕らの音楽を聴いて、僕らとお客様が一体となり笑顔になって元気になっていただき、共有できる時間を創れることができたら嬉しいですね。
最近少しずつですがエンタメ界も活気が出てきて、大千穐楽まで公演ができるようになってきているので、良かったと思っています。
 

プレッシャーと向き合う時は何を心がけていらっしゃいますか

今まで挫折は幾度となく体験してきました。いちばんの挫折は、帝国劇場でやった『1789−バスティーユの恋人たち』(20165月開催)ですね。もうこれはこの業界に入り、僕にとって忘れることのできない、初めてどん底まで堕ちて、悩み苦しんだ作品です。
出演した翌日の朝、目覚めると「帝劇に行きたくない、舞台に立ちたくない」と初めて思ったのです。俳優は厳しい世界ですが、作品ごとに共演している俳優さんからもパワーを貰えるし、自分が成長させていただくには素晴らしい世界だな!と思っていたのが、この『1789』に出演して、気持ちがガク~ンと堕ちてしまったのです。楽屋でメチャクチャ泣きました!楽屋を出て人に見られるのが嫌だったので、楽屋を出る時もキャストの皆さんが出たあと、真っ赤に泣いて腫れ上がった目を隠したくてサングラスして、ファンの方々がいなくなる時間を見計らって楽屋を出たりして…。それでもファンの人たちは待っていてくれるんですよ。
 

1789 バスティーユの恋人たち』 2016  デムーラン役

 

『1789』は確か日本初演でしたね

宝塚歌劇団ではすでに公演はしていたのですが、それ以外では日本初演で、海外からプロデューサーさんなどもプレビュー公演を観に来日されていて、スタンディングオベーションで盛り上がってくださってはいたのですが…。僕はカミーユ・デムーランという革命家の役をいただいていて、フランス版にはない曲で僕の歌う「武器をとれ」という楽曲を日本初演版として演出家の小池修一郎先生がフランスから許諾をいただき、僕がその歌を歌うことになったのですが、それが決まったのが、初日2週間くらい前だったので、急遽その曲を2幕に入れ込んだのです。本来ミュージカルは振り付けをやって、歌稽古をやってから芝居に入っていく流れなのですが、それが真逆になってしまい、「え!!初日まであと2週間しかないのに、いまから練習して歌えるかな」と、凄いプレッシャーに押し潰されそうになり、しかも僕にとって初めて帝劇の舞台で、お客様にちゃんと届けることができるのか不安しかありませんでした。でも「やるしかない!!」と努力はしてみたものの、歌ってみて自分が抱いていた不安の通りの結果になってしまい…。本当に泣きました。僕が31歳の時ですね。その時にちょうど歌唱指導の方がいらっしゃったので、「僕、もうダメです」と苦しい胸の内を明かしたら、「何が失敗だったの?何も変ではないし、もし仮に10人いたら10人に認められると思っていたの?もっと自分に自信を持ちなさい」とアドバイスをいただきました。僕はスポーツをやっていたので、全員に認められたいということが当然だと思っていたんです。だからその言葉で何だか気持ちが吹っ切れて少し楽になりましたね。
 

 

尊敬する俳優さんはいらっしゃいますか

岡幸二郎さんとは『1789』の舞台で、ラザール・ペイロール伯爵役で出演されていて、その半年後には『ロミオ&ジュリエット』でも岡さんはキャピュレット卿役、僕はティボルト役でご一緒させていただいたり、他にも岡さんのミュージカル・コンサートのゲストにお声がけいただいたり、凄く可愛がっていだたいています。その『ロミジュリ』の時に岡さんから「おまえ、この半年の間に何があった?」と質問されたんですね。「とにかく無我夢中で稽古してきました」とお伝えしたら、「なるほどな~」とひとこと。多くは語られなかったのですが、岡さんも僕の変化に何となく気がついてくださったのかもしれませんね。『1789』の時はボイストレーニングもそんなにはレッスンしていなかったのですが、あの時の悔しさに負けたくなかったので、死に物狂いで頑張りました。
ファンの方たちからは僕のことをストイックだとよく言っていただくのですが、僕は人一倍練習しないと皆さんに追いつけないので、本来のストイックとは全然違うんです。
 

意識の上で変わったことは

かつては、ファンの皆さんの評価だったり、出来栄え点のようなことを一番意識していて、周りからの評価を怖がっていた部分もありました。でもいまは自分が役を楽しむ!ということ、エンジョイすること。120%は望まず、練習してきた100%の力を出し切ることが大事だということが分かりました!
 

 

3月に出演されたミュージカル『WAITRESS  ウェイトレス』はこちらも日本初演でしたが、どんな感想ですか

僕の役は、高畑充希さん演じるジェナの夫で最低の男アール役で、陰険でDVやって言葉の暴力やパワハラもある凄く嫌なキャラクターだったのですが、本番中、客席のお客様が僕を見る目も凄かったですね、役としては成功ですが(笑)。その役を演じている期間は、運転していてもイライラして精神的にもおかしくなっていて、アールの人格から逃れられないような日常でした。役作りに入り込もう、入り込もうとする気持ちが先走って、悪い人間になる努力をしていたんだと思います(笑)。僕はよくひとから憑依型とかカメレオン俳優とか言われることが多いのですが、それじゃダメダメなんだと。笑わなくちゃと思い、自宅でもバラエティ見たりお笑い芸人さんの番組を見て笑うことを心がけていました。
コロナ禍で皆さんと一緒に稽古をする時間が殆ど取れなくて、キャストの皆さんと会えるのは最後の通し稽古くらいでした。振り付け家と音楽のスーパーバイザーのかたはブロードウェイから来日されて練習しました。演出家とはイギリスからリモートで練習したり、時差があるので、日本に合わせてくださって、僕たちが11時くらいから練習を始めるとイギリスは夜中の3時とかなんですね、練習しているとあちらの風景が夜明けになってくるんです。みんなで「good morning!」と言って、それがリアルタイムで美しくて、こんなことはかつてなかったので、練習も大変でしたが思い出に残る作品でもありますね。
愛知県の御園座公演が終わるころにやっと勇気を出して、批評などを見ることができたり、関係者から「アールがいたから良い評価を貰えたよね」って言っていただいたり、意外と高く評価されていてホッと安心しました(笑)。「本来の僕はこんな性格じゃないんですよー」とブログに書いたりして(笑)。
事務所の社長からは「おまえ、これが評価されたら人生変わるぞ!」とまで言ってもらい業界の方々からもアールを評価して貰えて嬉しかったですね。また次にこの役をやらせて貰えたら、もっとパワーアップしたアールを見せたいと思います!そして何より『WAITRESS』が1公演も中止になることなく、無事に大千穐楽まで上演できて本当に良かったです!!
 

ミュージカル『WAITRESS   ウェイトレス』2021年  アール役

 

今回、LOVE SONG COVERSの共演者で親しいかたは

夢咲ねねちゃんとも共演していますし、コウちゃん(上口耕平さん)とは共演回数もいちばん多いし長いお付き合いですね。森口博子さんとは、事務所の先輩だった本田美奈子.さんの繋がりから、博子さんと松本伊代さんと早見優さんの御三方が「大ちゃんを応援する後援会だから!!」と言っていただき、僕の出演していた舞台も観にきてくださっていたり、博子さんとは、かつてデュエットで歌わせていただいたこともあります。
尊敬する大先輩方に応援されるほどまだ僕は至っていないので、もっと頑張らないとなって思っています!博子さんとは、まずリハーサルでお目にかかることを今から楽しみにしています。
 

ミュージカル『ロミオ &ジュリエット』 2017  ティボルト役

 

ファンの皆様にひとこと

今回のLOVE SONG COVERSでは、元気の出るラブソングを聴いて皆さんに「生きていて良かった」と思えるような、コロナに負けない勇気とパワーを持ち帰って欲しいですね。アーカイブでの配信もありますが、ぜひ劇場でお会いできたら嬉しいです!!
 

 

 

実は渡辺さんには数年前からお声がけをさせていいただいておりましたが毎回舞台と重なり、今回やっと念願叶ってご出演いただけることになりました。インタビューでは、爽やかな笑顔と眼差しでミュージカル愛を語ってくださいました。
2016年東宝版初演ミュージカル『1789−バスティーユの恋人たち』のパンフレットより、渡辺さんの言葉を一部だけ抜粋させていただきます。“常に感謝と笑顔を心掛け、チャレンジ精神を忘れずに生きていこうと心に決めました。”
このミュージカルはフランス革命をテーマに描いたフレンチ・ロックのビートにのった音楽と激しいダンスが見せどころで、渡辺さんがこの舞台で苦悩されていたなんて微塵も感じさせない強烈な存在感を放っていました。
今回のコンサートで渡辺さんがお選びになったのは意外な曲でした。優しい人柄を表しているかのような選曲ですので、どうぞお楽しみにしていてください。
「ビジュアルも舞台美術のひとつ!」とは美輪明宏さんの名言ですが、今回のスチールも渡辺さんはノーメイクのスッピンです。インタビュー中も豪快な笑い声で語ってくださり、恵まれた容姿と高身長、スポーツ万能で歌が上手いときたら、あと欲しいものは何?!…と、お訊きしておけば良かったです〜


インタビュアー:佐藤美枝子
カメラマン:Ami Hirabayashi
取材協力:ZEAL STUDIOS
許可なく転載・引用することを堅くお断りします。

渡辺大輔

神奈川県出身。2006年「ウルトラマンメビウス」(TBS系、イカルガ・ジョージ役)で俳優デビュー。07年にはミュージカル『テニスの王子様』に青学4代目・手塚国光役で出演。以後も舞台を中心に活躍する他、情報番組でレポーターを務めるなど活動は多岐にわたる。主な出演作に、舞台:『ウェイトレス』(アール役)、『おかしな二人』(ヘスース・コスタスエラ役)、『モンテ・クリスト伯-黒き将軍とカトリーヌ-』(フィス役/モンテ・クリスト伯役)、『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2(ベルナルド役)、『ラヴズ・レイバーズ・ロスト -恋の骨折り損-』、『ロミオ&ジュリエット』、『オン・ユア・フィート!』、『タイタニック』、『1789 -バスティーユの恋人たち-』、『京の螢火』、『バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』、『南太平洋』、『ブラッドブラザーズ』、『ドラキュラ』、『天翔ける風に』など。

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