インタビュー Vol.39
言葉にできない感謝の気持ちを歌に込めて
中川晃教
●15年前、この道に入ったきっかけは?
単純なきっかけとしては、僕のリハーサルスタジオにミュージカル「モーツァルト!」のプロデューサーたちや東宝の関係者の方たちが来て、リハーサルを見て、というのが最初ですね。この15年間を過ごしてみて、「人と共に歩んできている」と益々実感があります。音楽というジャンル、ミュージカルというジャンルで、全てが今凄く充実していると実感を持てるのは、人と向き合って仕事をしてきたからだと思います。今回のコンサートもそうなのですが、中川晃教という人間に向き合ったときに、何かそれだけではない、満足の値ってそれぞれなんだけど沢山のお客さんがどうしたら満足してくれるのだろう、練習や実際のパフォーマンスは勿論重要なんだけども、それの根底には人とのつながりがとても重要なんです。今回もプロデューサーの佐藤さんと出会えているから、この企画が生まれているわけで。人と一緒に仕事をして、その先に共有できたときに自分の表現というものを新たな世界でどれだけ感動させることができるのか。そういうところにきているのかなと。どんな時にも一緒に作ってきた仲間たちがいて、ファンがいて、そして、そこには歌があったし、音楽があったし、人間というものがあったし、それに救われたこともあったし、そこで何ができるかわかれば、お互い共鳴しあってポジティブに生み出していく。結果、想像以上に良いものができている、ということが自信につながって、僕自身の入り口になっている。ホント、人と共にあるなと今凄く感じていますね。ミュージカルというのをきっかけに凄く感じていることがあって、今日もTBSラジオの収録があって、パーソナリティの方が「グランドホテル」のパンフレットを出して「千秋楽に行ってきたのですよ」と。そして、デビューしたてのときによくある質問で、「生活が大きくかわりましたか?」というインタビューがあって。昔は凄く怖かった。というのは、生活がそんなに凄く変わるものなのかなと。普段着る服とか目に見えてくる変化は実感なかったから。今はミュージカルを続けてきて凄く実感しているので、そこでこれが自分の歴史なんだなって、積み重ねてきたものとはこれなんだなって思えています。人に引っ張り出してもらったことも多く、様々な出会いや奇跡がいっぱいありました。でも、たえず不安なんだと思う。美味しい料理を提供するとしたら、それをお客さんには美味しく召し上がっていただきたいし、さらに一番の味だと感じてほしい。だから毎回毎回恐怖心があるけど、ぶれない自分の音楽があるから、ミュージカルと音楽とのスタンスを保てるようになってきていると感じます。自分自身で貫いていきたいなと。18歳でデビューして、いま必要なものはなんなのかとか、歌に特化してやってきたら次に何が見えてきたとか、コンサートで歌うことは生きることそのものと最近思うことが多いです。それをぎゅっと圧をかけて今回のコンサートに向かったときにオーケストラの方とどんなアンサンブルができるか凄く楽しみにしてます。
●毎回舞台では華やかな喝采の中で生きていて、先日出演されていたミュージカル「グランドホテル」のときもスタンディングオベーションで。そういう環境の中での達成感とはどんな感覚でしょうか。
みんな誰でも拍手をもらった瞬間というのは自分自身がやってきた事が受け入れられたというか、みんなの作ってきた苦労が報われた瞬間だと思う。自分も観客としてコンサートへ行くときも拍手するけど、心から出る拍手や聞こえないぐらいの柔らかな拍手など、敏感に反応しますよね。ミュージカルは大勢のスタッフで作っているので、そのみんなへの拍手というのであれば合点がいくし、それが自分自身のソロ・コンサートになった場合は、自分の歌になるわけで、個人になるわけですよね。拍手の色の違いというのをよく知っているからこそ、拍手に報われるし、だから浮かれるようなことはできないと思っています。
●お客様の感動の意思表示が拍手の色ですね。
素直に喜ぶというのは凄く重要ですが、拍手をもらえて当たり前だと思うんです。少し、語弊がありますが、拍手をもらえる、それだけのことをスタッフ一同がやってきているのですから。リハーサルも稽古も細かな準備もそのためにみんなが努力している。見えない人たちの努力があるからこそ、あの拍手だと思うのです。もし、そのあたりまえの拍手が当たり前ではないと思える瞬間がもしあるなら、お客さんと共有した時間の問題だと思うので、拍手を意識しないで歌に集中して行きたいと思います。拍手さえきこえないくらい集中しているのが理想ですよね。
●私たちのジャズの世界ではどんなに感激しても照れくさいのかあまり立ち上がらないけど、ミュージカルのお客様の熱気はいつも凄いですね。
ダンスホールでは立っているのかもしれないけど、僕もジャズで立つイメージはないです(笑)。深く座ってじっくりと聴いているイメージがありますね。もし立つとしたら何らかのムーブメント(きっかけ)が起こったとき。でも僕たちのミュージカルというのはエンターテインメントでチケットを買った時から楽しみにしてくださっているわけで。お客様はエンターテインメントをよく知ってらっしゃる。「今回は何で楽しませてくれるのだろう?」って期待して観てくれているし、自分も毎回意識している。そういうミュージカルの経験も自分のコンサートや今回のオケとのコンサートに活かされると思いますね。どこまで自分が気持ちを持って役を演じることができるか考えていますが、自分を出しすぎると崩壊してしまうからそのバランスも大事ですよね。音楽には形がないので、自分なりにイメージしていっています。今回のコンサートで何を楽しめるのだろう、というイメージから実感できるようにと準備していく。本当にミュージカルがコンサートに活かされているなと思いますね。
●今回サントリーホールは、客席が暗くはあまりならないと思うのですが、普段、コンサートでは、客席は見えているのですか?
見えないです。
●それは無になっているということでしょうか?
そうですね。実際に客席を見ることで歌える曲も沢山あると思うのですけど。
●ところで、先日のミュージカル「グランドホテル」は生演奏でしたよね。オーケストラの位置は、どこに?
袖の中にいます。指揮者が出てきたほうにいます。見えないですよね。小編成なので。
●一緒に共演された素敵な先輩の方は沢山いらっしゃいますよね。しかも中川さんを高く評価されている。小池修一郎先生は「天才」とおっしゃっていますし、市村正親さんも「同じ時代に生まれないで良かった」と。本当にそのぐらい才能をもって現れたミュージカル界の新星だった。まわりの人達に言われていてどう思っていましたか?
たぶん自分に面と向かって言われたことはないです。そういう風に言ってくださっていることはとても嬉しいと思うと同時に自分自身の芸を深めていきたいと思います。ミュージカル「SUPER MONKEY」が公演中止になった2009年、長い時間かけて準備していたからこの中止が僕にとってとても大きな事件でしたし、そういうことを乗り越えていく過程で色んな事を学んだ時期でした。2008年は音楽に集中し、2009年はミュージカルと気持ちを入れて計画的に進めていました。このミュージカルは、台湾公演も予定していましたし、グローバルなプロダクションだったので。でもこれをきっかけに、音楽だけという考えをやめようと思うようになって、気持ちが楽になった。この中止が決定したとき、色々な人たちが声をかけてくれて、その人たちとの出会いで教えてくれたことなのですが、自分の目的でスケジュールを決めているというのではなくて、選ばれているからこそ、「できる」か「できないか」の二つしかないので、できないと思うことはやめて、とにかくやってみようと。凄く道が開けましたね。それがデビュー15周年のコンサートにつながっていると思うし、10年ぶりのスタジオ・アルバムにもつながっている。そして、コンサート活動は定期的にやっていこうと思った。そこで毎回新曲を書いているのですが、その新曲をまとめたのがこの10年ぶりのアルバムに収録されている。あのときに音楽だけにとどまろうとしたらできなかったことです。
●ご自分で脚本を書いてみたいとか演出してみたいという野望は?
野望?野望だらけなんですけど(笑)。自分らしいミュージカルを作りたいとずっと思っているのですよね。これから始まる10年を考えたとき、ミュージカルがポップスになったらいいなと思っている。今回のアルバムにそういう想いがこめられていますけど。イメージとしては、ポップスのなかにミュージカルがあるという感じですね。ミュージカルと言うのは演劇に寄りがちですが、僕はミュージカルと言う音楽をポップスとして形にしたいです。
●脚本の構想は?
冒険活劇がいいなと思っていますよね。
●ひとり芝居は?
ひとりはあまり好きじゃないですね。それぞれのスタイルで醍醐味というのがありますが、僕自身が作りたいミュージカルというのはひとりのミュージカルではない。最低2人以上がいいかな(笑)。いまミュージカルが人気になってきていますが、ミュージカルが大好きというけど僕のミュージカルはみたことはない人も多い。一応、僕は「ミュージカル界で第一線を走っている」と言われたりすることが多いですけど、それでも知らない人はまわりに沢山いる。
●ミュージカル人気は凄まじいですね。平日のマチネでも満員御礼の札が!
ミュージカルという言葉が独り歩きしていると思う。ミュージカルという枠組みだけが認知されている印象です。僕にとってミュージカルというのはエンターテインメントだから。歌って、踊って、芝居して、二時間、三時間というのをどういう風に楽しませるのか。ライブでもない、コンサートでもない、芝居でもない、ジャズでもない、クラシック、オペラ、映画でもない、ミュージカルそのものを体験してもらいたいといつも思っています。もちろん色々なミュージカルがあるけども、敷居が高いと思われている。もっと極めたいですね。自分が作るミュージカルはポップスとしてはまるものを作りたい。
●中川晃教作品の誕生はいつ頃?
まだ具体的ではありませんが、モチーフを集めています。
●これまで本当に煌びやかな作品が多いですね。
でもオリジナルではないですよね。殆どが海外から輸入されたもの。オリジナルだとラサール石井さんの「HEADS UP!」や小林香さんの「DNA-SHARAKU」などですかね。僕はオリジナルの作り方を見てきているし、海外からの輸入ものも見てきている。そういう体験はとても貴重で、僕が作るミュージカルにつながるようにと色々と気にしています。
●ミュージカル「モーツァルト!」をもっと続けてほしかったというファンのご意見もよくお聞きしますが、中川さんの中では卒業したと思っています?
本当のことを言うと、僕が卒業したいと言ったわけではないのです。いろいろな流れがあってそうなってしまったっていうか…。今回のアルバムは15年の歩み、それが重いか軽いかわかりませんが、今の僕にとってはとても重い思いが詰まっています。それと同じくらい気持ちが重なっている代表的な作品だと凄く実感しているけど、「モーツァルト!」を待っているファンの気持ちは、わかる(笑)。「またやらないのですか」と聞かれますからね。それぐらい運命の役だったと実感しています。
●人気作品は再演があったりして、先々のスケジュールは組みづらいですね。お仕事があることは嬉しいことでしょうけど、ミュージカル以外でご自分がやりたいことのタイミングが難しいですね。
だから音楽もやり続けていかないのとだめなんですよ、僕は。今回のコンサートもそうですけど、どの編曲家さんとどの選曲でどういったものをつくろうかと考えていて、その全てが自分が息づいている時間。自分らしいことをやりたいというエゴだけではなくて、次に進む道を考えてる。タイミングが来たときにいろいろなことが出来ると思っています。それに言い続けていると実現することがよくあるので、言い続けます。僕の創るミュージカルは、近いうちに実現します。
●いままで沢山のオーケストラと共演されてきていますが、今回の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演はいかがですか?
欲張らずにやりたいことがありますが、今回の指揮をしてくださる栗田博文さんとの共演はドキドキしています。楽団の一人一人の感じとかスコアに対して何を感じているかなど一緒にやっていくとわかりますし、僕の歌をどのように聴いているのかとか色々と楽しみたいですね。今回のフルオーケストラをまとめる栗田さんの力を信頼して、僕自身の歌をぶれないで客席の後ろまで伝えたいと思っています。
活動15 周年を迎える、中川晃教10 年ぶりのスタジオRec アルバム
中川晃教 Original New Album「decade」
◆ 通常盤
・品番VICL-64523
・ CD(11 曲入)
・ 定価:¥3,000+税
・ オリジナル楽曲+
ボーナストラック
『Can't Take My Eyes off You(君の瞳に恋してる)』収録
◆ 初回限定盤
・品番:VIZL-936
・ CD(通常盤と同じ)+DVD
・ 価格:¥4,500+税
☆初回限定盤3大特典付
■DVD:『Can't Take My Eyes off You(君の瞳に恋してる)』 Music Video
■DVD:「decade」ドキュメンタリー映像
■スリーブケース仕様
「中川晃教さんデビュー15周年おめでとうございます」
2001年8月1日デビュー曲「I Will Get Your Kiss」でシンガーソングライターとして注目され、翌年の2002年「モーツァルト!」のミュージカル・デビューは衝撃的でその知名度は一気に日本中を駆け巡り、ミュージカル界の巨匠であり、劇作家・演出家の小池修一郎先生からも中川晃教くんは「天才!」と言わしめたひと。いま日本で上演されている話題のミュージカル作品で彼が舞台に立たない日はないといっても過言ではないほど、名実ともに日本のミュージカル界を牽引し続けている日本のトップスターです。
中川さんはシンガーソングライターとしても活躍し、東京国際フォーラム、東京オペラシティなどのホールを満席にするなど、ミュージシャン、ソングライターとしても彼の才能を余すところ無く発揮。その快進撃はとどまるところを知りません。10年ぶりにスタジオ録音をしたNewアルバム「decade」を発表。
中川さんとの出逢いは2010年。毎年年末に開催していたマイケル・ジャクソン・トリビュート・ライブ「Thank you Michael Jackson We all love you」にご出演いただいたのがきっかけです。私は中川さんの出演が叶ったとき、「夢が叶った!」とその時の感動は忘れることなく、その想いが現在につながっています。なぜなら、日本人でこんなにマイケルに近い声を出して歌えるひとを知らないから。その後ミュージカル「CONNECTION」という作品のなかで、更に強烈なマイケルを甦らせてくれました。天から授かったかのように美しい響きのある声は努力しても与えられるものではなく彼の持って生まれた「才能」と誰より勝る音楽に対する「好奇心」ではないかと思います。
15周年の集大成ともいえる8月8日の公演は、繊細な中にも表現力豊かな中川さんの美しい声を「世界一美しい響き」と言われるクラシックの殿堂サントリーホールにて、フルオーケストラをバックにミュージカル界のトップスターが前人未到のソロでステージに立ちます。文字通り無限大に広がる可能性を漲らせた中川晃教さんの音楽生活における、未来永劫に続く歴史の1ページとして輝かしく刻まれることを願ってやみません。
カメラマン:Koji Ota